タイ飲料業界大手から見る、食品業界の底力 - mediator

Blog タイ飲料業界大手から見る、食品業界の底力

2017年08月16日 (水)

販路開拓・進出
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2017年6月20日。りそな銀行の若手、中堅社員の皆様を対象に海外研修の一環として“タイ市場のリアルを知る”をテーマに、タイローカル企業の工場訪問ツアーを企画、運営させていただきました。

今回の訪問先は、タイの大手飲料メーカーでタイ人ならば知らない人はいない、象のマークのチャーンビールを製造販売するThai Beverage Public Company Limitedと日本食や緑茶ブームの火付け役となったIchitan Group Public Company Limitedの2社。タイ人消費者の心を掴み続ける両社の秘密を探ってみたいと思います。

Thai Beverage Public Company Limited 象のマークのチャーンビールで有名!…でも事業のスタートは?

最初に訪問したのはThai Beverage Public Company Limited。象のマークのチャーンビールで有名ですが、実は事業を始めたのは蒸留酒のウイスキーの方が先です。Mekong、Hong Thong、Blend等のブランドがありますが、主力商品のMekong(通称:メコンウイスキー)は、1946年から製造され、今も国民に愛され続けるロングセラー商品です。ビール業界に参入したのは1991年。デンマークのカールスバーグと提携しChang beerの製造、販売をスタートしたのです。

同社の2016年売上高は228億バーツ(約738億円)。飲料部門では国内シェアの約7割を握る大手です。蒸留酒では、メコンのウイスキーキングと呼ばれ、ビールにおいても、それまで圧倒的なシェアを誇っていたシンハービールを事業参入から5年で追い抜き、一時は国内のビールシェアを6割にまで伸ばしたこともあります。現在では、ビールや蒸留酒の他、ノンアルコール飲料や食品、飲食店の運営まで幅広く手がけ、タイ人にとって非常に身近な存在となりました。

タイ人消費者の心をつかむ、香りと味の決め手とは?

食にうるさいタイ人消費者の心を掴み続ける理由はどこにあるのでしょうか?工場見学から見えた同社の魅力をご紹介します。

同社の工場は、バンコク市内からおよそ2時間、バンコクの隣の県パトゥムターニー県にあり、ここでは同社の原点とも言えるメコンウイスキーが造られています。現在同社の工場は国内に18箇所、スコットランドと中国にも工場があり、世界に向けて製造、販売を加速させています。

まず一行が向かったのは、広大な敷地内にそびえる巨大な工場です。ここではHongThongウイスキーが製造されています。工場内に足を踏み入れると、ふんわりと香るいい匂い。水を蒸留し、糖をアルコールに変え発酵を促す工場内では、すでにお酒の香りが漂っており、匂いだけでも酔ってしまいそうです。

工場長のアーティップさんにお話を伺いました。

「この工場は、Sura Bangyikhan Co. , Ltd. の運営の元、主にHong Thongというウイスキーを生産しています。毎日100万本、月3,000万本が製造され、タイ国内のみならず世界各国へ届けられます。高品質なウイスキーの製造過程には、精度の高い世界標準の認証機械が導入されており、世界の消費者のニーズに合わせたウイスキーの製造が可能です。」

この後さらに蒸留、熟成されることで、ウイスキー特有の香りを強めていきます。こうして作られた香り高いこだわりのウイスキーは、巨大な機械設備によって次々とボトル詰めされ、人の手で丁寧にチェックをされた後、世界各国へと出荷されていきます。

一行が次に向かったのは展示室です。工場の仕組みやMekongの歴史、さらには同社の企業秘密(?!)を聞くことができました。同社のウイスキーには、香りと味の決め手となる様々なハーブやスパイスが配合されていますが、この材料の分量と配合率は、創業当初から現在に至るまで、たった二人のブレンダーと呼ばれるスペシャリストによって守られており、他の誰も知らないということ。

チャン・カンチャナラックさんは、Mekongウイスキーの配合を生み出したリカーのエキスパート。現在は、息子であるデットポン・カンチャナラックさんがその後を継いでおり、親子二代で同社ウイスキーの香りと味を守り続けてきました。他の誰もが真似できない、タイ人消費者の心をグッと握り続けてきたのがこのお二人なのです。

工場視察の最後は、同工場内に併設されたお洒落な雰囲気のバー「Mekong Bar」でちょっと一杯♪Thai Sabai(サバイとはタイ語で“楽”という意味)という、Mekongウイスキーをベースにライムとバジルリーフが香る特製カクテルをいただき、視察ツアーは終了しました。

製造機械は常に新しいものに変わりつつも、味や香り、こだわりの製法を守り続けてきた同社の企業努力は、世界に唯一無二のウイスキーを造り出し、長く人々に愛され続ける商品へと育っていきました。お酒の製造、販売には厳しい規制がかかるタイですが、同社の製品はこれからも多くの人々に親しまれ、楽しい時間を作るきっかけとして愛されていくのだろうと感じる訪問となりました。

※タイにおける“ウイスキー”の定義

一般的にタイで製造され、ウイスキーと呼ばれる商品の原料は、サトウキビの製糖過程で出る副産物の廃糖蜜(モラセス)を使用しており、正確にはウイスキー(大麦、ライ麦、トウモロコシなどの穀物を麦芽の酵素で糖化し、これを発酵させ蒸留したもの)ではなく、ラム酒に該当する。このラム酒にハーブやスパイスなどを使用した抽出液を配合し、香りや味、色みを調整したものをウイスキーとタイ人は呼ぶ。

ちなみに、タイ人も自身が飲んでいるタイ産のウイスキーが世間一般に飲まれているウイスキーではないということを知らない。

Ichitan Group Public Company Limited Ichitan=タンさんの緑茶メーカー

続いて訪れたのは、和食や緑茶ブームの火付け役とも言われる飲料メーカーのIchitan Group Public Company Limitedです。実は同社、創業者のタン氏が非常に有名で、タイ人では知らない人はいないほど。「タンさん」と呼ばれ、多くの国民に愛されるオーナー社長なのです。創業者のタン氏は、もともと日本食レストランの運営や日本食を製造販売するOISHI(オイシ)の創業者でオーナーでしたが、前述したThai beverageにOISHIを売却。その売却益で2010年、新しくIchitanという飲料ビジネスの会社を立ち上げたのです。

Ichitanが飲料(緑茶)業界に参入してから3年、なんと自身が売却したOISHI のシェアを抜き、業界No. 1の緑茶メーカーに登りつめました。今では、Thai beverageと追いつけ追い越せの大手ライバル企業同士になっています。

Ichitanの名前にもなっている日本語の「イチ」は、経営者、工場、スタッフ、お客様を一つにするという意味を込めており、働くスタッフには、「自分の家族を守るかのように責任感を持って仕事に取り組んで欲しい」との思いから、持ち株制度を導入しています。そしてIchitanの「タン」は勿論、タン氏の名前から。自らが一番の広告塔となり、様々なプロモーション広告、話題作りに登場しています。ペットボトル入り緑茶飲料のプロモーションでは、「購入者にベンツが当たる!」という派手なPRで同社の有名なキャンペーンの一つとなりました。

ひと気のない工場に整然と並ぶ最新設備の数々

今回訪れた同社の製造工場は、タイ中部アユタヤ県ロジャナ工業団地にある12万平米の広大な敷地内にあります。現在は2棟の巨大な工場が稼働しており、今後、第2工場内にはゼリー入り飲料を製造するための新しい製造ラインを拡張予定です。

まず、最初に案内していただいた建物内に入ると、大小カラフルなタン氏のオブジェが出迎えてくれます。工場見学コースには、子どもでも楽しめるような仕掛けが多く設置されており、いうなれば学べるテーマパークという感じです。しかしそんな楽しい空間も、実際に製品が製造されている工場内に入ると、たくさんのスタッフが働く“東南アジアの工場“というイメージとはかけ離れた、ひとけの無い空間が広がります。無菌室には、プラスチックの原料を30%カットし環境に優しいペットボトルを製造できる機械や在庫を自動で管理する倉庫があるなど、人による管理を最小限に抑えたシステムが並びます。日本の最先端技術が投入された機械も導入されているそうです。参加者からも「日本の工場を見ているようだ」と声があがりました。

この工場では、年間約6億本のペットボトル飲料、約2億本の紙パック飲料が製造され、約80億バーツ(約263億円)の売上があるそうです。緑茶飲料に使われる原材料の茶葉はすべてオーガニック。創業者のタン氏自らがボランティアやCSR活動に参加するなど、環境や社会へ貢献する取り組みを積極的に行っています。

見学コースの一部に2011年に起きたタイの大洪水で被災した当時の工場の様子を紹介する展示物もありました。ガイドの方はこんな話をしてくれました。

「あと数ヶ月で工場が稼働という時に、大洪水の被害にあってしまいました。工場は被災し、最新の機械の多くは取り替えなければいけない状況になりました。しかし、タンさんはすぐに必要な機械を調達し交換させ、2012年には工場の稼働を開始させたのです。同時に、被災地域へのボランティア活動も自ら積極的に行いました。それは、結果的にタンさんと企業のイメージアップとなり、売上を上げるという結果をもたらし、逆境をチャンスに変えた出来事となりました。」

カリスマ経営者の真の想い

事業売却による売却益の獲得や短期間でビジネスを軌道に乗せる手腕、また、当時はまだ今ほど人気ではなかった緑茶に目をつけた先見性やそれを形にするスピード感など、成功の道をひた走るタン氏に見えますが、実は幼い頃は貧しく、苦労と努力、失敗を重ねて今に至ります。ボランティア活動などに見られる“人の役に立ちたい”という信念は自身の経験から来るものもあるのかもしれません。また、過激なプロモーションも、所得格差があれどすべての人に平等なチャンスを与えたいとの想いもあります。

「タンさんが、また面白いこと始めたぞ!」 タイの人々にとってタン氏は憧れの存在であり、でも少し身近で親しみやすい存在でもあり、そして楽しませてくれるエンターテイナーでもあるのかもしれません。

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執筆 mediator

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