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2017.4.4

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日タイ企業連携はどうあるべきか?!パネルディスカッションレポート

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2017年2月10日。東京都中小企業振興公社タイ事務所開設1周年を記念して、日・タイ企業交流会が開催されました。

タイ事務所の活動報告や、「タイ企業と日本企業との相互理解」をテーマにした日タイ企業連携セミナーの後、場内を盛り上げたのが、第1部の最後に行われたパネルディスカッションです。テーマは「これからの日・タイ企業連携について」。会場のウェスティングランデスクンビットバンコク・グランドボールルームで繰り広げられた熱く示唆に富んだパネルディスカッションの模様をお伝えします。

【プログラム】
■テーマ:これからの日・タイ企業連携について
■モデレーター(司会):mediator co., ltd. CEO ガンタトーン・ワンナワス 氏
■パネリスト:
C.C.Autopart Co., LTD. 社長 ブンラート・チョデチョイ氏
S.P.metal Part Co., LTD. 取締役社長 チャンチャイ・タンタムプーンポン 氏
Tsuruha(Thailand) Co., LTD. ディレクター 高瀬彰夫 氏
東京都中小企業振興公社 タイ事務所 経営相談員 梅木英徹 氏

日系企業に期待するのは技術力

パネリストディスカッションは、まずモデレーターのガンタトーン氏による明確な目標設定からスタートしました。ガンタトーン氏は言います。

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「技術のある日本と資源のあるタイ。2つの国の連携には大いなる可能性がありますが、課題や問題もあります。このパネルディスカッションの前半では、失敗談も含めて日タイの合弁企業の過去や現状を振り返り、後半にはうまくやっていくためのポイントを探っていきたいと思います」

タイに進出する日系企業は、タイを生産拠点として見るだけではなく、消費地としても重視しています。その一方で、タイにとって日本は一番近い先進国。日系企業に大きな期待を寄せていますが、具体的にはどのような企業との連携を希望しているのでしょうか。

ブンラート氏が口火を切ります。

「我々は中小企業からスタートして20年。細かいことを見逃させずに丁寧にモノを作り込んでいく日系企業のやりかたを見習い、追いかけてきました。日系企業に期待しているのは何よりも技術力。先進的な技術を自分たちのビジネスに取り入れて強くなりたいですね」

技術力を求めるのはチャンチャイ氏も同様です。

「我々も日系企業と手を組んですでに40年近くが経過しました。技術力が一番期待するところ。ただし、5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)や安全に対する考え方など、知れば知るほど日本人を理解することは難しい(笑)。理解を深めていく努力は不可欠です」

逆に、日系企業はタイに何を求めているのでしょうか。タイのサハグループと手を組み、ドラッグストアを展開しているTsuruha(Thailand)の高瀬氏は言います。

「タイを中心とするASEAN全域のマーケットは日本の3倍もあります。ポテンシャルの大きさは、小売業にとっては魅力的。サハグループは過去に日系メーカーと組んだ歴史もありますが、さらに伸びていくために小売業を必要としていました。市場開拓という共通目標のもと、相互補完していくことが連携の理由です」

ここで、多くの日タイ連携の事例を指導してきた梅木氏が、タイの企業は日系企業にどう対応すべきかについて提案します。

「日本の企業は不安を抱えています。市場のこと、法律や関税、法人税のこと、さらには従業員にどう接すればについても不安を感じ、どうコミュニケーションを取ればいいのかわからないという企業が多いんですね。不安な気持ちから、工場のキャパシティや機械のスペック、品質管理などについてタイの企業は細かく質問を受けることも多いと思いますが、タイ人ならではのおおらかさを発揮して、そうした質問に辛抱強く答えてもらいたい。そして、自社の経営理念や目標設定、考え方についても日本の企業に明確に伝えてほしい。それが、両者の理解を深めるのです」
 
技術力に期待をかけて日系企業との連携に動くタイの企業。合弁の成否の鍵を握っているのは、進出する側が持つ「不安」を解消するアプローチといえそうです。

オーナーの考え方が一致しなければ成功しない

次に、ガンタトーン氏は日・タイ企業の連携を「結婚」にたとえながら、結婚前の予想とは異なっていた点、もし離婚に至った経験があればその理由や経緯を教えてほしいとパネリストに呼びかけます。

これに答えて、チャンチャイ氏は自らの経験をこう語りました。

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「経営方針はお互い膝を詰めて話をしないとダメですね。過去に3年ほどで合弁を解消したケースがありましたが、理由はその会社の考えが理解できず、こちらのやり方も受け入れてもらえなかったためです。肝心の技術は、『コピーされるから』という理由で移転してもらえず、金型も安い台湾製で十分だと言っても、『日本製の金型を使わないと製品を買ってもらえない』と言われてしまった。出向者についての考え方も異なっていました。法務や会計については、わざわざ出向者をよこすよりは、しっかりとしたアドバイザーのいる企業に任せたほうがいいというのが我々の考え方でしたが‥。オーナーの考え方が一致しないとビジネスは成功しない。これは教訓として学んだことです」

互いの言い分や主張、決定事項は文書の形にしておくこと、問題を先送りせず、スピーディに解決する必要性についてもチャンチャイ氏が強調すると、ブンラート氏からも次のような体験談が飛び出しました。

「過去にマッチングで失敗したことがありますが、原因は通訳でした(笑)。コストダウンを図って、あまり優秀でない通訳を使ってしまい、お互いの意図が明確に伝わらなかったんですね。私はいっしょに投資ができる人を探していたのに、先方はただモノを売りたいだけの人でした。しかし、失敗もありますが、いくつもの成功例もあります。技術力があるのに若い人材が不足し、労働力に困っている日本の中小企業とタイの企業が手を組めばお互いに成長できると確信しています」

リアルな経験談には説得力があります。表面的ではなく、理念やビジョン、何のためにタイで事業を営むのかという目標についての理解なくしては、連携を成功に導くことはできないのです。

日本企業は持続性を重視する

異なる文化を背景に、両者の理解をどう図るのか。Tsuruha(Thailand)の高瀬氏からも、その重要性を物語るエピソードが語られました。

「日本では細かい部分までマニュアルが存在します。タイで事業を展開するにあたって、そのマニュアルを従業員に説明していたら、『お客様が気分が悪くなったら救急車を呼びましょう』というくだりについて、タイ人従業員が『それはできない』と言うんですね。理由を聞いたら『救急車は有料だから』と。日本では、万引きを見つけたらすぐに警察に通報するのが決まりですが、それも『タイではできない』と言われました。『万引きぐらいでは警察は来てくれないから』という理由です(笑)。マニュアルはタイ向けに現地化しないとダメだと痛感しました。ツルハドラッグの店舗は現在50店にまで増えていますが、私がこれまでの経験から得たのは、日本人が『これがいい』と思うことはダメだということ。タイ人が『これがいい』というモノにしないといけない。日本人が幅を用意し、決めるのはタイ人という形が最適です」

また、高瀬氏はこうも言います。

「タイ人従業員に指示を出しても期日までにできていないということが多かったのですが、いまでは途中途中でわかっているかどうかを確認しています。粘り強く確認すること。諦めずに繰り返せば、目標に向かうときのベースになる。歩み寄れば、タイ人と日本人はうまくいくと確信しています」

文化が違えば考え方や習慣、価値観が異なるのは当たり前。違いを前提としながら、お互いに歩み寄り、より良い形を目指していくプロセスの重要性がわかります。

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パネルディスカッションも中盤戦に近づきました。ここで梅木氏が、持続性を重視する日本企業について思うところを語ります。

「日本の会社が考える『成功』とは、持続すること。韓国中央銀行の2008年の調べによれば、200年以上の歴史を持つ会社は日本には3600社もありました。2位以下はドイツ800社、フランス220社と続きます。日本は長い歴史を持つ会社が本当に多く、1000年以上続いている会社も9社あるんですね。これは重要なポイントです。タイ側からすると、日本の企業は交渉担当者に裁量がなく、事前に十分に調べないとなかなかゴーサインが出ないなど、不満点はたくさんあるでしょう。でも、日本企業はタイの市場を大事に思うからこそ人を送っている。コピーや横領、不渡りなどを避けたいというのも事業を長く続けたいから。日本企業には、『三方良し』という発想があって、売り手良し、買い手良し、世間良しを追求しています。長く持続し、社会的な貢献から利益が得られるという考え方なんですね。そこを知って欲しいと思います」

優柔不断でスピード不足。誰に決定権があるのか見えてこない。タイを始め、外国企業からよく漏れる不満点を、梅木氏は「持続性重視の姿勢」から解きほぐしていきます。日タイの合弁事例を数多く手掛けてきた梅木氏ならではの視点ではないでしょうか。

ここで、モデレーターのガンタトーン氏が、ハイコンテクストという表現を用いながら、パネリストにこう呼びかけます。

「日本は空気を読む文化。多くを話さず、仕草や手振りをまじえながら意図を読んでいくハイコンテクストです。仕事も日本人はタスクベース。一方、タイ人は投資ベースで仕事に臨みますが、この点についてパネリストの方々はどうお考えですか」

ブンラートさんは合理的な視点でこう答えます。

「折れることはあっても自分たちの方針や自説を曲げないのは日本人の強みでもあると思うんですよ。私は、良いモノができるのであれば日本人中心で経営することは全然かまわないと思います。やってもらえばいいんですよ」

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課題認識の必要性を指摘するのはチャンチャイ氏です。

「コミュニケーションを通して、途中の課題をはっきりさせることが必要です。タイもこれから高齢化社会に向かいます。日本の高齢化とは異なるとは思いますが、社会的課題を日タイで連携して取り組めば解決できるはずですよ。日本の技術を使って、タイでモノを作り、一緒に売っていきましょう」

よりグローバルな視点からタイの企業との連携を考えてほしい、と提言するのがチャンチャイ氏です。

「日本の食品産業は超ドメステイックです。国内ではそれで済んでいたと思いますが、世界に目を向けるなら、タイの生産技術を積極的に使ってほしい。タイにはハラル食品を作れる技術があり、タイを拠点にすれば中東にも輸出しやすい。グローバルな市場を獲得し、莫大な利益を得られるチャンスがあります。タイのこのメリットをぜひ生かしてほしいですね」

事業を通してタイの社会に貢献したい

パネルディスカッションもそろそろ終盤。ガンタトーン氏の呼びかけに応じて、パネリスト4人から、今後の日タイ企業の連携に関して忌憚のない意見が飛び交います。

「タイで不足しているのは、医療や健康機器の産業。全国の公立病院だけでなく、FDAの承認が得られれば、ASEAN諸国への輸出も不可能ではありません。ぜひ日本の中小企業の進出を望みたい」と話すのはブンラート氏です。

チャンチャイ氏は、「タイの事務所を使って事業拡大に役立ててほしい」と提案します。背景にあるのは、中所得国の踊り場から抜け出し高所得国として発展させるためにタイ政府が打ち出している方針「タイランド4.0」。「タイランド4.0」では、農業、軽工業、重工業に続いて、モノベースから価値ベースの経済への移行を図っていますが、チャンチャイ氏は次のように見ています。

「現時点では2.5のレベルに過ぎませんが、日本の優れた技術を利用することで4.0に近づくことも不可能ではない。ブンラート氏がお話されたように医療分野は有望ですよ。バイオや食品加工など、日タイでいっしょにやっていける分野はたくさんあります」

Tsuruha(Thailand)の高瀬氏も言います。

「かかりつけの薬局を持つことで、病気の予防につながり、快適な生活を実現できる。我々はそんな存在になりたいですね。事業を通してタイの社会に貢献し、今後はASEANも視野に入れながら、タイの人々といっしょに事業を推進していきたいと思います」

最後の最後に、梅木氏からは日本企業に対してちょっぴり辛口の提案が飛び出しました。

「経営判断のポイントはコストとリスクです。これらが普遍的なのに対して、メリット・デメリットは状況で変わる。だから、日本の企業にはコストとリスクを判断軸に置き、リスクをミニマイズしてほしいと思います。また、『主観的コミュニケーション』は日本でしか通用しないことも知ってほしい。例えば、元気がいいから、一生懸命やるから評価が高いというのは他の国では受け入れられない。客観的な評価が必須なのです」

日タイ企業の連携を軌道に乗せることは容易ではありません。文化の違い、価値観、習慣、考え方の相違はさまざまな問題を生み、ハードルを形作ります。しかし、ハードルを理解した上で乗り越える努力を怠らなければ必ずクリアできる。そしてハードルの向こうには潤沢なマーケットと大いなるポテンシャルが広がっていることを浮き彫りにしたパネルディスカッションでした。さて、あなたはここから何を学び取りますか?

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三田村 蕗子(ライター):日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。