
2017.3.27
採用が会社を変える|「アジア式組織運営」を考える vol.07
アクセス数: 1252今回は「人材採用」をテーマにします。企業を悩ませる最大のトピックの一つが採用ではないでしょうか。東南アジアはジョブ・ホッピング文化と言われ、常に人材確保に苦労する状況です。多くの人材紹介会社やジョブ掲示板などのサービスが乱立しているのも、そうした人材不足のマーケット状況を示していると言えるでしょう。
採用「戦術」の前に、採用「戦略」を
良く聞かれる質問は「面接は何回くらいするのか?グループディスカッションなどもさせるべきか?」「面接でどんな質問をしたらいいのか?」といったものです。もちろんこうした観点も重要ですが、それらはすべて「戦術」(Tactics)レベルの話で、どちらかというと後で考えるべきことです。
それよりも先に考えたいのは、「わが社は今、どんな人材像を求めているのか?」「そうした人材から選ばれるには、弊社の何を魅力として訴求すべきか?」といったより上位の「戦略」(Strategy)です。せっかく面接を工夫しても、そもそも採用したい人が応募して来てくれないのでは、努力が無駄になってしまいます。採用も市場を相手にした競争ですから、消費者にモノを買ってもらうためにマーケティング戦略が必要なのと同じ、と考える必要があります。
なかでもまず最低限やるべきことは、ターゲットとなる「求める人材像」をしっかりと言語化し、採用基準として定めることです。そこを飛ばして面接をしてしまうと、「なんとなく優秀そうだ」という曖昧な基準で採用をしてしまうことになり、後でミスマッチが起きかねません。
”Hire the Character. (性格・価値観で採用せよ)”
では求める人材像をどう定義すればよいのか。採用の世界によく知られた言葉があります。”Hire the Character. Train the Skill.”と言って、「性格を採用せよ。スキルは鍛えろ。」というものです。つまり、自社に合う性格・価値観を持った人を取ることを最優先するということです。多くの場合は、自社の企業理念や企業の価値観(Corporate Value)を元に人材像を定義します。
もちろん、業務に必要なスキルを持っていないと仕事になりませんから、そこを求めることは否定しません。それでも、スキルに引っ張られて人間性を見落としてしまってはいけません。ごく一部の専門的な仕事を除いて、多くの仕事はチームワークで成り立っています。周囲との関係性がうまく行かないと、せっかく持っているスキルも発揮されません。
とりわけアジアの組織は関係性重視です。「同僚と仲良くできる」という要素は、業務スキル以上に重要なことかもしれません。チーム全体の雰囲気、他の人のパフォーマンスへの影響も考えると、価値観を見落としてはいけないでしょう。
価値観を見るためには、社内のできるだけ多くの人と接触させて、「一緒に働けそうかどうか」を確認することです。また、直感的に「この人を好きか?」と自問することも重要です。相性は結局、直感であり、右脳で感じるものです。「なんとなく好きじゃないけど、経歴も立派だし・・・」と左脳で考え始めると判断を誤ります。ちなみに価値観を見るにあたって、履歴書はほとんど役に立ちません。大切なのは自分の目です。
自分より優秀な人を採る
「どんな人を採るか」は会社を変えるパワーを持ちます。仮に離職率が年間2割だとすると、おおざっぱに言えば5年で組織は丸ごと入れ替わるわけです。「組織改革」を掲げる会社は多いですが、「今いる人間の意識を変える」ことは容易ではなく、「新しく入ってくる人の質を変える」ことの方が比較的簡単です。
その際に認識したいのが「自分よりも優秀な人を採る」という考えです。我々はつい、「この人は素直に言うことを聞きそうだな」と思うと、その人を採用したくなります。さらに良くない考えとしては、「この人は自分の立場を脅かさなそうだ」というものです。採用担当者がこういう考えを持ち始めると、およそ優秀な人は組織に入ってこなくなります。
私はこうした状態を「マトリョーシカ状態」と読んでいます。ロシアのお土産にマトリョーシカというものがありますが、人の中により小さい人が入っている、あのオモチャです。採用担当者が「自分よりも優秀でない人」を取り始めると、どんどんその連鎖が続いていてしまって、組織にいる人の優秀さのレベルがどんどん下がっていってしまうわけです。
反対に、「うちの会社のレベルよりこの人はずいぶん高いのではないか」と思われる人は、全力で採用しましょう。そういう人が来れば、周囲の刺激になり、組織のレベルも引っ張られて上がります。優秀な人が入社して「物足りないな」と思って辞めてしまうこともあるかもしれませんが、そういう問題が起きれば、社内を変革していく良いきっかけになるでしょう。
最後に、これらを進める人事部門、採用担当者のレベルがある程度高くないと上記のことは実現出来ません。成長している企業では、人材採用は最も優秀なエース社員が担当する業務であることが少なくありません。それに比して、我々が見るところのタイの組織の風景では、まだまだ人事・採用の業務を担っている人は事務や裏方の延長にすぎない、といったケースも見受けられます。
採用担当にエース社員を据えること、またそれが難しい場合は、経営の重要事項として採用に経営陣がコミットして、「将来の会社を作っていく人材」の獲得にエネルギーを注ぐべきではないでしょうか。
「アジア式組織運営」を考える ~日タイ混成チームで仕事をして見えてきたもの~とは?
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