2018年5月、メディエーターの新事業である mirai campus が開講しました。
Table of Contents
mirai campus は、日本とタイで働く方々にとって必要不可欠なプラットフォームを目指して立ち上げた研修・セミナー提供サービスです。
ターゲットは日系企業の従業員を中心に日本本社の海外事業担当者も含めて、日本とタイで働いている方々。ミッションは「日本とタイの未来を担う人財をつくること」にあります。
壮大な目標だと思われますか?
僕は実現可能だと考えたから立ち上げました。必ず実現させる覚悟でスタートしました。
今日は、僕がどうして mirai campus を立ち上げようと考えたのか、その背景にある思いや志をぜひ聞いてください。
年々低下する在タイ日系企業の存在感
タイに進出している日本の企業は5444社。圧倒的な数です。歴史のある企業も多いです。
しかしながら、タイで日本の企業は孤立していると言わざるを得ません。
というのも、日本人は非常に保守的だからです。日系企業同士でのやりとりに終始し、タイの社会にはあまり溶けこもうとしていない。そう見られています。
もちろん例外もありますが、タイ人にはそう見える。「日本の会社だから仕方がない」。これが多くのタイ人の偽らざる本音です。
存在感も年々低下しています。いまやタイ人が大学卒業後に働きたい会社100社の中に、日系企業はわずか10社ランクインしている程度。日系企業が上位を占めていた時代とは隔世の感があります。
僕の回りには、音楽やアニメがきっかけで日本が大好きになり、日本語の勉強を始めたというタイ人がたくさんいますが、そのほとんどは日系企業には勤めていません。
日本人はタイ人のことを理解しようとしていない。
どうせわかってもらえない。
日本的価値観を押し付けられるだけ。
出世もあまり望めない。
半ばあきらめの境地のタイ人が多いのです。
いま抱えている問題の原因はどこにある?
日系企業が主に関心を持っているのは外的要素です。
タイの政治経済やタイ人の勤務態度、勤労意欲について多くの不満を抱え、現状の問題の原因は外にある、つまり自分たち以外にあると考えています。
タイ人やタイに対する自分たちの理解が足りないのではないか。
もっとタイ人やタイのことを学ぶ必要があるのではないか。
こんな風に、問題の根源が自分たちの内部にあると考える人は少数派ではないでしょうか。
このままではいけない。この状況を変えなくてはいけない。日本とタイとの架け橋になるべく仕事をしてきた僕の焦燥感は年々深まっていました。
日本人にもっとタイのこと、タイ人のことを理解してもらえれば、そしてその逆も成立すれば、組織の中で働く日本人もタイ人も幸福になるはずです。「日本企業、いいよね」という評価が高まれば、日系企業のブランディングにもなります。
にもかかわらず現実はそうではない。逆方向に動いています。互いが幸福に働けるようにするために僕は何をしたらいいのだろう。どう動けばいいのだろう。
僕はずっとこうした問題意識を抱えていました。
「5年を1年に」タイを理解するために必要な時間が短縮できたら…
日系企業の日本人駐在員の多くは、3年~5年で本帰国しています。ようやくタイに慣れたというところで帰任せざるを得ないのが実情です。
理解が深まってきたところでタイを離れてしまうと、新しい駐在員に前任者のナレッジが継承されることはほとんどありません。駐在員が変わればリセットされ、また一からやり直しです。
あるとき僕はこう考えました。
タイを理解するのに5年かかるとすれば、その5年を1年に凝縮できるようなコンテンツを提供していくことはできないのだろうか。もしそれが可能になれば、たとえ任期が3年と短くても仕事はしやすくなるはずです。限られた期間でタイ人との関係もうまく構築できるようになるはずです。
これが、 mirai campus 構想の「卵」です。
2017年にスタートした「NBSビジネスミッション」も一つのきっかけになりました。「NBSビジネスミッション」は日経ビジネススクールアジアが主催する新しい視察プログラム。メディエーターはタイ側のコーディネーターをつとめ、セミナーの前哨戦として僕は「タイ人を知る」という講座を担当しました。
販路開拓について話すことはあっても、こうした趣旨の講座は初めてです。僕は講座の2ヶ月~3ヶ月前から徹底的にタイ人を調べ直し、情報を集め、整理をして講座に臨みました。
僕がやらないでいったい誰がやるんだ
講座内容を構成する上で、メディエーターのパートナー企業の一つであり、タイで事業をしている企業の人材育成や組織風土変革、人事制度改革などを手掛けているAsian Identity Co., Ltd.の社長・中村勝裕さんからもたくさんのアドバイスをもらいました。
その中の一つが、マーケティングコンサルタントであるサイモン・シネック氏が、2009年に『TED TALK』でプレゼンした『ゴールデンサークル理論』です。優れたリーダーは、サークルの中心から外側へ向かって、「Why」「How」「What」の順で想いを伝えると共感を生むという理論に僕は深く共鳴しました。
よし。共感を呼ぶためには「Why」から伝えなければならない。そう肝に銘じた僕は講座内容を練り直し、本番に臨みました。
その結果、「タイ人を知る」講座は大きな反響を呼びました。タイの歴史や道徳教育、社会構造などを背景とした一般的なタイ人の仕事への価値観、就労観、タイ人と日本人との「空気の読み方」や仕事上の「人間関係」で重視するものの違いについて率直に分析し語った内容は、参加者からこれ以上ないほど高く評価されたのです。
もしこの講座を日本人スピーカーが行っていたらブーイングされたかもしれません。しかし、僕はタイ人であり、日本人の「目」を持っています。だから、受けたのでしょう。
そうか。こういった内容を伝えられるのは自分しかいないんだ。僕がやらないでいったい誰がやるんだ。
ここからは僕たちは mirai campus 構想の実現に向けて走り出しました。