「日本人目線」のタイ人
JETROが主催するアセアンキャラバンや、地方銀行が地元企業をタイに招いて開く商談会。僕は本当にたくさんの商談会のサポートを行ってきました。
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しかしその成果となると「課題が残る」と言えるでしょう。商談会の回数に対して、実際に商談が成立してビジネスが形になった例はわずか。マッチングがかなったとしても、その後事業が軌道に乗った例となるとほんの一握りです。
うまくいかない理由はどこにあるのか。
いまの僕だったらわかりますが、当時の僕はよくわかっていませんでした。というのも、あの頃の僕は日本から帰ってきたばかりで、日本人の感覚のままだったからです。
だから、僕は商談会にやってくる日本人と同じように、こう考えていました。
「日本のモノはいいものなんだからタイで売れないはずがない」
「価値が伝われば必ずうまくいくはずだ」
タイ語はできたけれど(当たり前ですが)、モノを売り込まれる側であるタイ人側の気持ちなどまったく考えない。僕は、完全に「日本人目線」のタイ人だったのです。
日本企業はバックパッカー投資家に過ぎない!?
当時、タイにモノを売り込みに来ていた多くの日本企業は「バックパッカー投資家」でした。
「バックパッカー投資家」とは何だと思われます?
たまたまの縁にすがる、お金をかけようとせず、一発勝負。ちょっときつい表現かもしれませんが、これが日本企業が成果を出せない理由だったと思います。
知り合いにタイ人を紹介されると「ご縁だから」という理由で、そこを突破口にビジネスを切り開こうと安易に考える。そんな日本企業は少なくありません。よくあるのが、友人の妻がタイ人だから、というケースです。たとえ、そのタイ人が自分たちのビジネスを知らなくても、自分たちの業界にうとくても、「ご縁」という理由だけで仕事を依頼する日本企業はたくさんあります。
これこそが、僕が日本企業の多くを「バックパッカー投資家」とみなす理由です。
旅行だったらそれもいいでしょう。たまたま知り合った人に宿を世話してもらったり、ご飯をごちそうしてもらったり。それも旅の楽しさです。
しかし、ビジネスを進める上で適切な人と出会うためにはお金がかかります。当然の費用です。ここがわかっていない人が多いというのが僕の偽らざる実感です。
偶然の「縁」にすがり、ビジネス上必要な対価を惜しみ、それでうまくいかないとすぐに諦める。これでは成功しようがありません。
売り手都合の価格設定では売れない
事業規模は商品力と価格、企業努力、現地企業の4つが揃って初めて大きくなります。方程式にするとこうですね。
「商品力☓価格☓企業努力☓現地企業=事業規模」
魅力的な商品があって、現地の人に受け入れやすい価格をつけて、適切な現地企業のサポートのもと、熱意を持って売り込みを図ることができてはじめてその商品は売れていく。これが鉄則です。
しかしタイにモノを売りに来ているにも関わらず、日本人はあまりタイ人に話を聞きません。1回交渉すれば売れるだろうと甘い考えを持っています。バンコクだけを見て、タイをわかった気になる人も多いです。
価格設定もタイのマーケットを考慮していません。日本の工場出荷額をベースに利益を上乗せしているだけなので、とうてい普通のタイ人が買える金額ではない。売り手都合の価格でしかありません。
「モノが良ければ高くても売れる」と考えているのでしょうが、それではマーケットが限られてしまいます。事業規模を作るには、タイのマーケットに合わせた価格設定が必須です。
タイのマーケットや価格に対する考えが甘く、「タイ人は日本が好きだから」「メイドインジャパンなら受けるだろう」と思い込んでいるバックパッカー投資家がうまくいくはずがない。僕はタイに帰国してから1年ほどでタイ人の感覚を取り戻し、日本企業の問題点をタイ人の目でとらえるようになりました。
本気度が高い日本企業とは!?
「呼んでくれてありがとう。でも買うモノがないよ」
声をかけて商談会に来てもらったバイヤーからこう言われたことがあります。一人だけではありません。何人からも言われました。
「日本企業は本気でタイに売り込む気があるのかな?」と聞かれたこともあります。そう言われてしまうのは、継続性が低く、売り込みの熱意が薄いと思われているからです。
商談会で名刺交換をしたとしましょう。バイヤーは仮に「高い」「タイでは売れない」と思っていても、社交辞令で「あとで連絡します」と言います。それを真に受けてメールを待っていると当然、来ない。そこで諦めてしまう日本企業が多いのです。
「タイに行くのでぜひお会いしたい」とこちらから連絡し何度も繰り返せば、相手も本気だと思うはずです。でもそれをしない。
熱意を見せて相手のふところに食い込む。これは日本ではどの企業も普通にやっていることではないでしょうか。しかし、なぜかそれをタイではしなくなる日本企業が多い。日本ではマーケットのニーズに合わせて商品を開発し懸命にチャネルを開拓しているはずなのに、タイではなぜか待ちの姿勢に終始してしまう。
これでは本気度が低いと言われても仕方がありません。
もちろん、そうした企業ばかりではないです。成果が出ない現実を直視して問題点を把握し、社長自らタイに乗り込んでトライアルアンドエラーを繰り返すことで、商談が実を結んだ例もあります。そうした例をいくつも実際に見てきました。
成功例のほとんどが、決定権がある人、経営上の判断ができる人がタイにやってきているケース。「日本に持ち帰ってからお返事します」ではありません。それではほとんどの場合、尻すぼみになってしまいます。
異国のマーケットはバックパッカーの気分や単なる根性論で開拓できるほど甘くありません。事前の情報収集や英語のパンフレット、FOB価格を掲載した価格表など準備も不可欠です。
本気でタイの市場開拓に取り組む高い企業、失敗をものともせずに試行錯誤を繰り返し、行動を惜しまないアクティブな日本企業の登場を僕は心から望みたい。そして力を尽くしてサポートしたいと思っています。