お客様のゴールを把握する
もう一つ、僕が通訳の仕事をする上で、いえ、メディエーターとして仕事を受ける際に心がけている点があります。
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それは、お客様のゴールを把握し、そのゴール達成に力を尽くすことです。
商談や会議など場面場面によって、ゴールはまったく違います。もちろん、お客様によっても異なります。
この商談を通して、何を得たいのか、どんな成果をおさめたいのか。
この会議を通して、何を伝えたいのか、何を達成したいのか。
このイベントを通して、何を成し遂げたいのか。
ゴールは案件ごとにすべて異なります。
こうしたゴールに必ずしも到達できるとは限りません。商談や会議には相手があります。相手にもゴールがあり、目標があり、意思がある以上、ゴールを掲げていても道半ばで終ることもあるし、逆にやすやすと到達することもありえます。
しかし、お客様とゴールを共有しないままでの通訳は、単なる言葉の伝達に過ぎません。通訳とは、お客様のゴールを自らのゴールととらえ、お客様に代わって代理の営業をしていくことができる人材だと僕は考えています。
将来を見据えることの必要性
そして、これも大事なことですが、お客様の3年先、5年先、10年先を見据え、その会社が将来どうあるべきかを想像しながら動くことです。
面白い雑貨を作っている会社がタイに進出したいと考えて、僕に商談の通訳の仕事が来たとしましょう。
この会社にとって、どのようにタイに進出するのが好ましいのか。どんなチャネルを開拓するのがベストなのか。
僕はそこを意識しながら通訳をします。その会社の3年後、5年後、10年後、タイにどのようなポジションを確立しているのか–。そんなイメージを持った上で通訳を行います。
そのためには、事前の情報収集が欠かせません。前もってしっかりとお話を聞き、商談や会議の目的は何なのか、ゴールをどこに置いているのかを確認し、さらに自分でも情報を集めます。
こうした作業なくして通訳が本来の役割を果たすことはできないと僕は思うのです。
日々の勉強が欠かせない
ときには通訳する内容が、経営の領域にまで深くおよぶこともあります。
また、ときには通訳しなければならない話の中身が、技術的な領域、超ニッチで専門的な領域に入ってくることもあります。
僕は理系出身であり、技術的な分野、工学的な分野についてはそれなりの知識とキャリアを持っていますが、それでも日々の勉強は欠かせません。
通訳するその場で、「その言葉はわかりません」「教えてください」では仕事は成り立たないからです。通訳をする際に求められるであろう知識、知見を増やしつつ、その上で、お客様についての理解を深め、ゴールを共有して、伴走していく。これができて、初めてプロの通訳ではないでしょうか。
「またメディエーターを使いたい」
「またメディエーターにお願いしたい」
通訳が終わったときに、お客様からこう言われたときは至上の喜びです。妥協せずにやってきてよかったと心から思える瞬間です。
ここまでしてくれるとは思わなかった
お客様の中には、「通訳にそこまでは求めていない」という方もいます。
日本語をタイ語に、タイ語を日本語にただ通訳してくれればいい。それ以上はこちらで考えるから必要ない。そう言われることもあります。
その場合でも、ゴールを目指す僕の考え方に変わりはありません。
そうしたお客様にとっては、「言葉の通訳」がその1日のゴールです。であれば、そのゴールを目指し、最良の結果を残したい。
もし、3日間だけ通訳として雇われ、この期間中の「言葉の通訳」だけが求められているのであれば、期間内にベストな通訳であり続けることがお客様のゴールであり、僕のゴールです。
そう。重要なのはお客様のゴールを理解すること。
そうすれば、たとえ1日だけの「言葉の通訳」であったとしても、お客様の代理となって営業マンの役割を果たすことができます。
いつもこんな風に考え、行動しているからでしょうか。よく、お客様にこう言っていただけます。
「ここまでしてくれるとは思わなかった」
「こんなにやってくれるとは想像もしていなかった」
「仕事ぶりに感動したよ」
こんなにうれしい賞賛の言葉はありません。ちょっと大げさかもしれませんが、メディエーターはこれからも通訳だけでなく、すべての業務を通して、お客様に「感動」を与えていきたいと思います。