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2015.11.16

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人々の健康を守り、歩いているだけで楽しいお店へ。ツルハドラッグの挑戦。(ベンジャマースさん)「私と日本」vol.5

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日本と接点を持ちながら社会貢献が可能な仕事をしたい!
行動の人・ベンジャマース トンプラシットさん

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タイを代表する財閥、消費財大手のサハグループは多くの日本企業と提携している。ワコール、イトキン、ライオン、ダイソー、ローソン…。日本国内で約1600店の店舗網を持つドラッグストアチェーン大手のツルハドラッグもその一つだ。

2011年12月に合弁でツルハ・タイランドを設立し、2012年7月から店舗展開をスタート。店舗数ではすでに24店におよんでいる(2015年10月時点)。着々と店舗を増やす同社の中核メンバーとして活躍しているのが、サハグループから出向しているベンジャマースさんだ。

日本の大学生はあまり勉強をしないことに驚く

「日本スタイルのドラッグストアをタイにも定着させたい」

そう熱く語るベンジャマースさんと日本との接点は、高校時代に遡る。

「海外に旅行、ではなく、留学をしたいと考えたんですが(笑)、返済義務がない奨学金は2つしかなかった。一つが王様による奨学金。もう一つが日本の文科省からの奨学金です。文科省の方が試験が早かったので、こちらを受けたんですね。それまでは日本に行くことは考えたこともありませんでしたが、英語なら誰でもできるし、ほかの人ができない言語をマスターした方が将来には良いかもしれない。そう思って留学を決意しました。家族ですか? 日本なら治安も良いし、タイからも近いからと大賛成でした」

来日し、1年間日本語学校に通った後、ベンジャマースさんは東京大学工学部電子工学科に入学する。デジカメで黒板を写し、授業内容を録音して、復習に励みながらも、社交ダンスのサークル活動も楽しんだというベンジャマースさん。東大に入ってもっとも驚いたのは他の学生たちの学習姿勢だったそうだ。

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「日本の大学生はあまり教室で勉強をしないんだなって思いました(笑)。でも、東大では友人もたくさんできましたね。その時、毎年タイ人が5人留学に来るんですが、最初の内こそ一緒に行動していたものの、だんだん東大のコミュニティ自体を楽しむようになりました」

大学2年の時点で、すでに日本語でサバイバルできていたというベンジャマースさんに、日本語習得のコツを尋ねてみた。

「お勧めはカラオケで歌うこと。私は、日本語のラブソングをたくさん歌って、学習に役立てました(笑)。新しい言語を使いこなせるようになると、社会の見え方が違ってきます。世界が広がるんですよ。これは大きなアドバンテージだと思います」

ここならチャレンジさせてもらえる

大学院に進み、修士課程もそろそろ終わりに近づいてきた頃。研究所に入るか、一般の企業で働くか。選択を迫られたベンジャマースさんは、ソフトバンクモバイルへの入社を決めた。ボーダフォンを買収した直後のソフトバンクは、できあがった組織にはない野武士的な雰囲気に満ちていた。ベンジャマースさんはそこにやりがいを感じたのだ。

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「ここならチャレンジさせてもらえると思いましたが、入ってみたらまさにその期待通り。私は、ソフトバンクモバイルで携帯電話に入った電子マネー機能のバグや耐久性の試験をテスターにチェックする指示を出していました。入りたてなのに6人に指示を出す立場って、考えればすごいですよね(笑)。Eメールの書き方や名刺の渡し方、上座下座の配置なども全部、先輩に教われながら仕事を通して覚えていきました」

ソフトバンクモバイルでの日々を楽しそうに振り返るベンジャマースさん。その表情から、ハードながらも充実していた様子がうかがえる。

入社から2年後、ベンジャマースさんに転機が訪れた。タイへの帰国である。

「弟も文科省の奨学金で日本に留学に来たので、家族のことを考えたら、そろそろ私はタイに帰った方がいいかもしれない。そう考えたんです」

タイにおける親と子の結びつきの強さを考えると、ベンジャマースさんの決断は当然と思える。だが、帰国後の勤務先は予想外だった。選んだのは、IT系の企業ではない。大学で先行した工学系の企業でもない。貴金属の売買を専門とする企業だ。

社会に貢献できる仕事がしたい

オーストラリアから金を買い、アクセサリーにして売却するというまったくの異業種に挑戦した理由は、シンプルなものだった。

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「モノを生産するだけの仕事ではつまらない。ファイナイスの世界に一度足を踏み入れてみたかったんですね。3年間勤務しましたが、面白かったですよ。一時、工場でも働いていたんですが、壁に飛び散った金や、下水の中に溜まっている金を年に一度、フィルタリングをかけて集めるんです。こうしたプロセスの効率化のほか、携帯のアプリで金の売買ができるプラットフォームを立ち上げる仕事も担当しましたし、最後の方では先物取引も経験しました」

新しい事業の遂行に醍醐味も感じつつ、ベンジャマースさんの意識は180度異なる世界へと向かっていった。FXや株、先物取引とは、極論すればお金を右から左に流すだけだ。形として何かが残るわけではない。そこに惹かれて身を投じ、多くの経験を積んだ後、今度は社会に貢献できる仕事を模索するようになったのだ。

日本語を使いたいという希望もあった。貴金属の売買の会社にいた3年間、彼女が使っていたのはタイ語と英語だけ。せっかく習得した日本語も錆びついてしまっていたからだ。今度は日本と関わりがあり、日本語を使い、そして社会貢献も可能な仕事をしたい。その希望をかなえて転職したのがサハグループだ。

当初は、日系企業の窓口になる部署で合弁の契約書を作成し、法務を確認する仕事に追われていたが、やがて新たな希望がむくむくと頭をもたげてきた。「事業そのものに関わりたい」という挑戦心だ。

「待っていても仕方がないので、会長に直談判しました。すると『何がやりたいの?』と聞かれたので、『小売に興味があります』と答えたんです。自分の生活に近い領域の仕事に直接携わりたかったんですね」

柔らかな物腰からは想像できない熱意と行動力。ベンジャマースさんには「武闘派」の称号を進呈したい。

歩くだけでも楽しい、それが日本式ドラッグストア

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念願かなって、日系小売業のタイ進出を手掛ける部署に就いたベンジャマースさんに、ツルハドラッグの魅力を聞いてみた。

「タイにはブーツやワトソンズがすでにたくさん店を構えていますが、日本のドラッグストアとはまったく違います。ブーツやワトソンズは目的があって買い物に行く店。逆に、日本のドラッグストアはぶらぶらと買い物を楽しめるお店です。薬だけではなく、化粧品から雑貨、食品まで何でもありますよね。ワンストップショッピングを提供する場所で、歩くだけでも楽しい。POPや派手な陳列も見ていて飽きません。それが、日本のドラッグストアなんです」

タイのツルハドラッグの品揃えは、4つのカテゴリーから構成されている。目的買いの医薬品、マグネットとして機能する化粧品、来店頻度を高める日用品と食品の4つだ。

1号店のゲートウェイエカマイ店をのぞいてみた。店構え、売り場構成、陳列方法、動線まで確かに日本のドラッグストアを彷彿とさせる。POPにはタイ語が記されているが、売り場には「何か面白いモノが見つかりそう」な雰囲気が満ちている。

「このPOP、スタッフがみな知恵を絞って書いているんですよ」

そういうベンジャマースさんは満足気に見えたが、現在のツルハドラッグタイランドに対する自己評価はシビアだ。

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「10点満点で採点するとしたら3点か4点ですね。反省すべき点も多いですし、見直したこともたくさんあります。例えば、最初のうちは日本人を意識して店を作っていたんですが、現在はローカルのタイ人の志向を踏まえて、売り場やラインアップを設計し直しました。日本とタイとでは、人口構成や車の利用度、専業主婦の数なども違いますからね。でも、3年目に入って、サービスレベルはかなり良くなりました。『店の雰囲気が楽しい』とお客様から言っていただけることも多いんです。ツルハのメンバーの皆に大感謝」

健康に関する適切な情報が得られる場所に

売り場面積やロケーションも見直しを図っている。2014年までは、オフィスビルに小規模な店舗を出店していたが、小さな薬局との差別化が難しいことから、戦略を変更。2015年からは、売り場面積200平方メートル以上の店を集中的に出店している。

光熱費の支払いができるカウンターサービスも導入し、日本のドラッグストアやコンビニでよく販売されている袋入りパンの販売も実験的にスタートした。

こんな構想もある。

「ドラッグストアに来れば、健康に関する適切な情報を得られる。私は、ツルハの店をそういった空間に育てたいんです」

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例えば、いま風邪が流行っているとしよう。ツルハドラッグの店に行くと、マスクのボリューム陳列とともに、風邪に関する情報や罹患を防ぐうがいや手洗いなどの情報がPOPで大きく訴求してある。客は、「お、いま風邪が流行っているのか。だったら注意しなければ」と意識を高める。

そして、その意識はツルハドラッグで販売しているマスクやうがい薬への注目度を上げ、売り上げ増にもつながり、風邪の予防に結びつく。これこそが、ツルハドラッグ流の社会貢献であり、Benjamasさんが携わりたいと願った「企業の社会貢献」のあり方だ。

ツルハドラッグが掲げる目標店舗数は、海外に1500店。タイにはすでに日本からたくさんの小売業が進出しているが、いまのところ、「これ」といった成功例はないのが実態だ。はたして、ツルハドラッグが先鞭をつけるのか。行動の人・ベンジャマースさんの奮闘を期待したい。

「私と日本」とは?

日本語を話し、日本の価値観を身につけたタイ人から見た、日本の姿とは何か?2つの言葉で2つの国を駆け抜けるタイ人の人生に迫る、タイでのビジネスにヒントをくれるドキュメンタリーコンテンツ。(関連記事はこちら)
三田村 蕗子(ライター):日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。
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